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とある特殊詐欺を題材にした作品を観ていた。全体を通じて面白かったのが、気になる箇所があった。それは詐欺グループが生演奏付きの会食をしながら成果を報告するシーン。いくら演奏中とはいえ「あの話題の社長、見事に騙されたわ!」という会話は筒抜けてやしないのか、と。
もちろんこの会話が発端で捕まるわけがない。だが逆にいうと、ストーリーと無関係なのに危機管理がなってなさすぎると思う。色んな警察やら主人公の仲間がちっぽけな証拠を紡いでいき、ようやく逮捕できる。それが王道ルートなのに
この前の客、事件の関係者ですよ
これで完封じゃないか。
…というモヤモヤを抱えていたが、このたび自己解決した。犯罪組織の息がかかった料亭かもしれないし、奏者に聞こえてない可能性もある。また話は入ったとしても間にうける訳じゃない。こういった理由も挙げられるが、最たるは演出の都合だろう。
これは前科者から聞いた話だが、小さいきっかけで捕まる可能性があるため、逃亡犯は赤信号の無視さえ抵抗があるらしい。とすれば詐欺グループの成果報告なんて足がつかない場所を利用するはず。それこそ自宅やらアジトやら。
だが映像として考えたとき、毎回おなじ場所で打ち合わせしてたら盛り上がりに欠ける。特に悪役を移すのであれば、贅の限りを尽くした料理を雑に食べ、演奏を聞かずベラベラ話し回る。それくらい失礼な方が感情移入しやすいのだ。
一方ヒーローサイドを映すのなら、庶民的な居酒屋など同じ場所を使うことで視聴者に親近感を与えることができる。SPECの中華料理屋がいい例だろう。関係ないけど『虎』は地元にあるので焼飯とタンメンをよく食べてた。
つまり、私が覚えた違和感など製作関係者は嫌になるほど悩んだ末、映像作品としてクオリティを上げるため、あえて残しているはず。まぁとはいえ気になるものは気になるけど、そういう製作の裏側を踏まえて視聴すれば一層面白くなるかもしれない…いや違うな。気付いた時点でこういう捻くれた視点を使わないと自分が楽しめないんだろう。
ホラー映画を見てる時、鏡がないと主人公とお化けの表情を同時に映せないから多分そろそろ来るな。やっぱりきた。あぁ怖い〜!なんて考えちゃう。逆にその知識を逆手に取った描写も中にはあるし驚くが、それだって2度は通じない。気付いたら最後、気付かないかった世界に戻れないのだ。
気になる描写の例
ところで今回の件に限らず、モヤモヤする映像作品の描写について色んな意見を見てみた。よくある例として
- 電話口で「え、颯太くんが誘拐された!?」と復唱する
- 何かを探している人同士の「見つかったか!?」「いや。そっちは?」
- ハッキングして侵入する時の「40秒が限界だ」でピッタリ40秒使う
- ハッキング完了画面が存在すること
など様々だった。しかしこれらも物語に緩急をつけるための描写であって、仮に現実に沿ったのなら
- 電話口で「わかった」→口頭で「颯太くんが誘拐されました」
- 見つかってない事は見ればわかるので無言
- 「尺伸ばしの必要ないんで、早めに終わらせてください」
- 「あ、終わりました」
多分こうなる。特に下2つは現実に存在しない状況なので、視聴者にスリルを与えるための描写でしかない。
だが気にする人よりも遥かに多く、没入してハラハラできる人がいるはずだ。プログラミングを一切してない人なら徐々に100%になる画面を載せた方が感覚的にも理解できるし、余裕を持って侵入しても退屈だ。
演者「あの、これ現実的にあり得ない描写ですよね?」
監督「それなら作品全体あり得ねぇよ、フィクションだからなコレ!」
みたいな会話、沢山されてきたんだろうなぁ。
現実に沿わせすぎると難解になる
反対に、現実に沿わせたら理解しづらくなった作品を私は知っている。それは小説なのだが、意図的に現実と同じような会話の流れを再現していた。例えると
- 彼の卒論は?
- これ誰かの書いたやつにソックリでさ。
- じゃあ落第になるかな
- そういえば土産のもみじ饅頭、美味しかったよ。まさか揚げてあるとは
- あれ美味しいでしょ。そりゃ揚げたら美味しいけど
- うん、まぁでも学部生の論文なんて読書感想文みたいなものだから見逃すかな。他の生徒も同じようなものだし。
- 先行研究くらい調べてほしいね
のような文章。内容が飛んだり、「間」がなくなっていたり、目的語が消失しているが、現実の会話はこのような流れになっている。まさに「文字起こし」なのだ。
だが上記例文ですら一読しても理解しづらいだろう。独自の単語に置き換えるとより難解になる
- 彼のシグナコードは?
- これ誰かのジェネティックパターンにソックリでさ。
- じゃあ落第になるかな
- そういえば土産のグラビトンスライス、美味しかったよ。まさか揚げてあるとは
- あれ美味しいでしょ。そりゃ揚げたら美味しいけど
- うん、まぁでもコクーン生のニューロログなんて読書感想文みたいなものだから見逃すかな。他のも同じようなものだし。
- 先行シグナデータくらい調べてほしいね
こんな感じで進んでいく小説だった。初期の森鴎外くらい読みづらかった記憶がある。
奇しくも会話を文章にする難しさ、作文が苦手な生徒の多いことに気付かされた。話を戻そう。
映像において、物語と深く関わらない部分での非現実的な描写がある。これは違和感を抱かせるリスクを受け止めつつ、物語へ没入させる舞台装置かもしれない。一方で現実に則しすぎると退屈になったり、より難解になる恐れもある。
この視点を持ちつつ、今後も映像作品を楽しんでいこう。純粋にオモテから楽しめない自分が虚しくもあるが、気にしてしまった以上、ウラの事情を踏まえて楽しむしかないのだ。